今回は、S&P500の過去データを用いて過去10年間のリターンを推定し、その結果をもとに傾向や注意点を解説します。
過去の傾向を把握しておくことで、今後似たような状況に陥った場合でも落ち着いて対応できるようになりますよ。
記事の前半では年率平均リターンの計算方法とS&P500の過去10年間の年率平均リターンを、後半では年率平均リターンの振れ幅と過去傾向に基づく投資時の注意点を具体的に解説します。
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この記事を読み終えることで、S&P500の過去10年間のリターンが分かるだけではなく、過去の傾向に基づく投資時の注意点も理解できた状態になります。
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S&P500の年率平均リターンの計算方法2パターン
まず、年率平均リターンの計算方法について解説します。
年率平均リターンの計算方法は、以下の2パターンに大別できます。
S&P500の年率平均リターンの計算方法2パターン
一定間隔ずつずらして推定する
ある時期 $i$ ヶ月目の株価を $x_{i}$、ここから $n$ ヶ月後の株価を $x_{i + n}$ とします。
この時、この期間 $n$ における平均リターン $r_{i}^{(n)}$ は、以下のように表現できます。
$$
r_{i}^{(n)} = \dfrac{x_{i + n} - x_{i}}{x_{i}}
$$
例えば、約30年間の株価データに対して10年間($n = 120$ ヶ月)の平均リターンを計算する際のイメージは、以下に示す通りです。
以上より、$n$ ヶ月間の平均リターン $\widetilde{R}_{n}$ は、
$$
\widetilde{R}_{n} = \dfrac{1}{|\mathcal{I}|} \sum_{i \in \mathcal{I}} r_{i}^{(n)}
$$
となります。ここで、$\mathcal{I}$ は取り得る $i \quad (= 1, 1 + n, 1 + 2n, \cdots)$ の集合です。
データが年初から年末までの20年分(241ヶ月分)あり、$n = 36$ とした場合、$\mathcal{I} = \{ 1, 37, 73, \cdots, 180 \}$ となりますよ。
さらに、この結果を用いると、求めたい年率平均リターン $\widehat{\mu}_{n}$ は、以下のように計算できます。
$$
\widehat{\mu}_{n} = -1 + (1 + \widetilde{R}_{n})^{\frac{12}{n}}
$$
一定期間の累積リターンから推定する
こちらの計算方法は、以前の記事にまとめています。
詳細は省略しますが、最終的に求めたい年率平均リターンは、以下のようになります。
$$
\begin{eqnarray*}
R_{n} & = -1 + \prod_{i = 1}^{n} \left( 1 + r_{i}^{(1)} \right) \\
\widehat{\mu}_{n} & = -1 + (1 + R_{n})^{\frac{12}{n}}
\end{eqnarray*}
$$
S&P500の過去10年間の年率平均リターン
次に先ほど紹介した年率平均リターンの式を用いて、投資期間ごとの10年間の年率平均リターンを求めてみましょう。
今回、推定にはONLINE DATA ROBERT SHILLERで公開されているデータのうち、1871年1月から2024年11月までの約153年分(1847ヶ月分)のデータを用いました。
今回は、上記のデータの一部を利用しています。
また、投資期間として、次の4パターンを採用しました。
項番 | 投資期間 |
---|---|
1 | 1871年1月~1910年12月(40年間) |
2 | 1908年1月~1947年12月(40年間) |
3 | 1945年1月~1984年12月(40年間) |
4 | 1982年1月~2021年12月(40年間) |
投資期間は、それぞれ2年間だけ重複するようにしています。
上記の投資期間において、10年間の年率平均リターンを推定した結果、それぞれ以下のようになりました。
項番 | 投資期間 | 年率平均リターン (一定間隔ごとの推定結果) | 年率平均リターン (累積リターンによる推定結果) |
---|---|---|---|
1 | 1871年1月~1910年12月 | 7.103162 | 7.023556 |
2 | 1908年1月~1947年12月 | 7.901572 | 7.946270 |
3 | 1945年1月~1984年12月 | 11.363842 | 11.249700 |
4 | 1982年1月~2021年12月 | 12.419572 | 12.487930 |
10年間の年率平均リターンの推定結果から、次の2点が読み取れます。
推定結果から読み取れること2つ
- どちらの計算方法を採用しても、概ね同じ結果になる。
- 投資期間ごとに推定結果が大きく異なる。
リターンの推定結果の善し悪しを判断する際は、どんなデータで推定したかが重要になりますね。
投資期間ごとの年率平均リターンの違い4パターン
年率平均リターン加えて、リターンの最悪ケースも知っておいた方が良いです。
今回は、先ほどの投資期間に対し、12ヶ月、24ヶ月、60ヶ月、120ヶ月、160ヶ月、240ヶ月の間、投資を続けた場合のリターンの振れ幅を調べました。
例えば、1908年1月~1947年12月で120ヶ月間投資を続けた場合では、以下の期間で年率平均リターンを計算し、その最大値と最小値を調べることになります。
1908年1月~1947年12月で120ヶ月間投資を続けた場合の区間の分割例
- 1908年1月~1917年12月
- 1918年1月~1927年12月
- 1928年1月~1937年12月
- 1938年1月~1947年12月
以降では、それぞれの推定結果を図示したものを紹介します。
投資期間ごとの年率平均リターンの違い4パターン
順に紹介しますね。
1871年1月~1910年12月(40年間)
一定間隔ごとの推定結果と累積リターンによる推定結果は、それぞれ以下に示す通りです。
60ヶ月(5年)でリターンがプラスになっています。
160ヶ月(約13年)投資を続けると最悪ケースでも4%を越えますね。
1908年1月~1947年12月(40年間)
一定間隔ごとの推定結果と累積リターンによる推定結果は、それぞれ以下に示す通りです。
こちらのデータでは、120ヶ月(10年)でリターンがプラスになっています。
余裕を持たせる場合は160ヶ月(約13年)以上投資をした方が良さそうです。
1945年1月~1984年12月(40年間)
一定間隔ごとの推定結果と累積リターンによる推定結果は、それぞれ以下に示す通りです。
こちらも1908年1月~1947年12月と同様に、120ヶ月(10年)でリターンがプラスになっています。
最悪ケースを想定すると、こちらも160ヶ月(約13年)以上投資をした方が良さそうです。
1982年1月~2021年12月(40年間)
一定間隔ごとの推定結果と累積リターンによる推定結果は、それぞれ以下に示す通りです。
最近のデータでは、120ヶ月(10年)でリターンがプラスになっています。
120ヶ月(10年)以上の成績を見ると、ここ最近が一番成績が良いですね。
リターンの最悪ケースの推定結果から、次の2点が読み取れます。
リターンの最悪ケースの推定結果から読み取れること2つ
- 長期投資を続けることで、リターンがプラス側で安定する。
- リターンの最悪ケースを考えると、160ヶ月(約13年)以上は投資を続けた方が良い。
S&P500に投資する際の注意点3つ
今回の推定結果を踏まえ、S&P500に投資する際の注意点も紹介します。
S&P500に投資する際の注意点3つ
順に解説しますね。
最低13年間は投資を続ける
S&P500の過去データに基づいて、40年間分の年率平均リターンの振れ幅を確認しました。
その際の最悪ケースの転換点を整理すると、以下のようになります。
期間 | 最悪ケースのリターンが初めてプラスになった投資期間 | 最悪ケースの年率平均リターン |
---|---|---|
1871年1月~1910年12月 | 60ヶ月(5年) | 1.89% |
1908年1月~1947年12月 | 120ヶ月(10年) | 0.60% |
1945年1月~1984年12月 | 120ヶ月(10年) | 1.05% |
1982年1月~2021年12月 | 120ヶ月(10年) | 2.79% |
今回の推定では、投資開始から10年間経つと年率平均リターンがプラスになりました。
一方、ギリギリでリターンがプラスになっているケースも存在します。
以上を踏まえると、最低でも13年間は投資を続けた方が良いと考えられます。
長期投資中は市場に居続ける
さらに、暴落が発生しても投資を続けることが重要です。
なぜなら、最も成績の良い日を数日逃すだけでリターンが激減するためです。
実例として、J.P.モルガン(アメリカの大手金融機関)による2002年から2021年までの投資に関する調査結果を紹介します。
この調査結果は、最も成績が良い日を20日間逃しただけで、リターンが9.52%から2.63%に激減したことを示しています。
上記の事実を踏まえると、10年、20年と投資を続けて成果を出すためには、市場に居続けることが重要です。
成績の良い日を狙って投資するのは、ほぼ不可能ですよ。
株価が急落しても投資を続ける
上記に関連して、株価が急落しても投資を続けることが重要です。
なぜなら、株価が下落した後に株価が上昇していることが多いためです。
具体的なデータを用いて確認してみます。
今回は、下落後の2年間位までで株価が上昇している時期をピックアップしました。
1871年1月~1910年12月
この期間における下落時期と上昇時期の上位5件は、以下に示すようになりました。
項番 | 下落時期(下落率) | 上昇時期(上昇率) |
---|---|---|
1 | $1907/10\, (-10.44\%)$ | $1879/10\, (+11.21\%)$ |
2 | $1907/03\, (-9.51\%)$ | $1901/06\, (+10.29\%)$ |
3 | $1893/07\, (-8.88\%)$ | $\textcolor{#F08170}{1873/12\, (+10.12\%)}$ |
4 | $1893/05\, (-8.53\%)$ | $1901/04\, (+8.80\%)$ |
5 | $\textcolor{#399AE7}{1873/10\, (-8.16\%)}$ | $1891/09\, (+8.41\%)$ |
1873年10月に株価が下落していますが、1873年12月に同じくらい株価が上昇していますね。
1908年1月~1947年12月
この期間における下落時期と上昇時期の上位5件は、以下に示すようになりました。
項番 | 下落時期(下落率) | 上昇時期(上昇率) |
---|---|---|
1 | $1929/11\, (-26.19\%)$ | $\textcolor{#F08170}{1932/08\, (+51.30\%)}$ |
2 | $\textcolor{#399AE7}{1932/04\, (-23.26\%)}$ | $\textcolor{#F08170}{1933/05\, (+29.31\%)}$ |
3 | $\textcolor{#399AE7}{1931/12\, (-18.12\%)}$ | $1938/07\, (+20.46\%)$ |
4 | $1946/09\, (-14.43\%)$ | $\textcolor{#F08170}{1933/06\, (+17.57\%)}$ |
5 | $\textcolor{#399AE7}{1931/09\, (-14.38\%)}$ | $1938/10\, (+11.58\%)$ |
1931年9月、1931年12月、1932年4月で株価が下落していますが、1932年8月、1933年5月、1933年6月に大きく株価が上昇していますね。
1945年1月~1984年12月
この期間における下落時期と上昇時期の上位5件は、以下に示すようになりました。
項番 | 下落時期(下落率) | 上昇時期(上昇率) |
---|---|---|
1 | $1946/09\, (-14.43\%)$ | $1982/09\, (+12.09\%)$ |
2 | $1962/06\, (-11.42\%)$ | $\textcolor{#F08170}{1975/02\, (+10.81\%)}$ |
3 | $\textcolor{#399AE7}{1974/07\, (-11.35\%)}$ | $\textcolor{#F08170}{1976/01\, (+9.54\%)}$ |
4 | $1970/05\, (-11.20\%)$ | $1984/08\, (+9.20\%)$ |
5 | $\textcolor{#399AE7}{1974/09\, (-10.02\%)}$ | $1982/10\, (+8.88\%)$ |
1974年7月と1974年9月に株価が下落していますが、1975年2月と1976年1月に株価が上昇していますね。
1982年1月~2021年12月
この期間における下落時期と上昇時期の上位5件は、以下に示すようになりました。
項番 | 下落時期(下落率) | 上昇時期(上昇率) |
---|---|---|
1 | $\textcolor{#399AE7}{2008/10\, (-20.2\%)}$ | $\textcolor{#F08170}{2009/04\, (+12.31\%)}$ |
2 | $2020/03\, (-18.92\%)$ | $1982/09\, (+12.09\%)$ |
3 | $1987/11\, (-12.31\%)$ | $1991/02\, (+11.60\%)$ |
4 | $1987/10\, (-11.86\%)$ | $1998/11\, (+10.97\%)$ |
5 | $2001/09\, (-11.25\%)$ | $1997/05\, (+9.21\%)$ |
2008年10月に株価が下落していますが、2009年4月に株価が上昇していますね。
このように、株価下落後に大きく株価が上昇するケースがあるため、「長期的に投資を継続することが大切である」と言うことが分かります。
過去の傾向も考慮して投資を始めよう!
今回は、以下の内容について解説しました。
投資する際は、今後も成長が見込まれる金融商品を見定めることが重要になります。
そのためには、過去の傾向が参考になるため、過去の傾向から分かる以下の3つの注意点を理解しておきましょう。
S&P500に投資する際の注意点3つ
これに加えて、新NISA制度と組み合わせてS&P500に投資することで、税制優遇を受けながら長期・積立・分散の3本柱で資産形成を行うことができますよ!